クラウドECとは？EC形態別の比較やメリットデメリットを解説

近年、EC（電子商取引）の市場は急速に成長しているなかで、選択肢の一つとして注目されているのが「クラウドEC」です。

しかし、

「クラウドECとは具体的に何なのか」
「そのメリットやデメリットはどのようなものなのか」
「他のEC形態とどのように比較されるのか」

と、疑問を抱いている人も多いかもしれません。

本記事では、クラウドECの基本的な概念から、その特徴や他のEC形態との比較、メリット・デメリットを詳しく解説していきます。

ECサイトを立ち上げたいと考えている方、既存のECサイトをより効果的に運営したいと思っている方はぜひ参考にしてみてください。

クラウドECとは
クラウドECとその他のEC構築を比較
クラウドECのメリットや魅力
クラウドECの注意点やデメリット
1. 費用が高くなる場合がある
2. ソースコードが把握できない
どんな場合にクラウドECがおすすめか
おすすめクラウドECサービス3つ
クラウドECに関するよくある質問
まとめ

クラウドECとは

クラウドECとは、EC（電子商取引）サイトをクラウド環境上で運営することを指します。

従来のECサイトの運営方法では、専用のサーバーを購入・設定し、必要なソフトウェアや機能をインストールする必要がありましたが、クラウドECを利用することで、これらの手間が大幅に削減されるのが大きな特徴です。

特にシステムのセットアップや管理がシンプルになり、企業や店舗は商品の販売やマーケティングに集中することができるようになります。

また、クラウドECのシステムは定期的に自動で更新されるため、常に最新の機能やセキュリティ対策が備わっています。

これによって、サイトの運営者はシステムのメンテナンスにかかる手間やコストを削減できるだけでなく、利用者にとっても安心してショッピングを楽しむことができます。

そして、クラウドECはカスタマイズ性が高く、企業や店舗のニーズに合わせて柔軟にシステムをカスタマイズ可能な点も魅力。

長期的に見ても高いパフォーマンスを維持することができるECの構築方法です。

クラウドECとその他のEC構築を比較

よりクラウドECについて深く知るためには、他のEC構築方法と比較してどのような違いを把握するのが1番です。

簡単な項目の比較は以下の通りです。

	クラウドEC	ASP	ECパッケージ	フルスクラッチ
初期費用	約300万円～	～30万円	500万円〜	1000万～数億円
月額費用	数十万円	数万円	数十万円	数十万円
導入までの期間	3ヵ月～6か月	1ヶ月～3ヶ月	6ヶ月～18ヶ月	12ヶ月～24ヶ月
セキュリティ	◯	◯	△	△
カスタマイズ性	◯	×	◯	◯

それぞれ大まかな費用や得意としていることはわかりますが、細かな違いはどこにあるのでしょうか？

細かな違いを続けて確認しましょう。

クラウドECとASPの比較

ASPは「アプリケーションサービスプロバイダ」の略で、クラウド上にあるアプリケーションを、ユーザーに提供するサービスを指します。

従来のソフトウェアを購入して自社のサーバーにインストールするのではなく、ASPが提供するサービスをインターネット経由で利用する形が特徴です。

そのため、ASPの初期コストは比較的安価で、すぐにサービスを利用開始することができるというメリットがあります。

一方、クラウドECとASPの最大の違いは「カスタマイズ性」にあります。

確かに、両者はクラウド上でECサイトを構築する点で共通しています。しかし、ASPでは提供されるアプリケーションやサービスがある程度固定されており、システムの部分的な構築や運用は基本的に担当できません。

これに対して、クラウドECはシステムのカスタマイズ性が非常に高いため、企業や店舗の独自のニーズに合わせたサイト構築が可能となっています。

カスタマイズの自由度や柔軟性を求める場合はクラウドEC、初期コストを抑えつつ、既存の機能を活用してサイトを運営したい場合はASPといった選択が考えられるでしょう。

クラウドECとECパッケージの比較

ECパッケージは、電子商取引サイトを構築するためのソフトウェアパッケージのことを指します。

このパッケージには、

商品の登録
カート機能
決済機能

など、ECサイト運営に必要な基本的な機能が全て含まれています。

そのため、ECパッケージを導入することで、比較的素早くECサイトを立ち上げることが可能です。

ECパッケージの最大のデメリットとして、3〜5年の周期でシステムアップデートのための改修が必要となることが挙げられます。

つまりシステムアップデートのために、改修費用が定期的に発生し、長期的なコストとして考慮する必要があります。

一方クラウドECの場合、システムがクラウド上で自動的に更新されるため、このような定期的な改修費用は基本的には発生しません。

短期間での立ち上げを重視する場合や、初期投資を抑えたい場合はECパッケージが適しているかもしれません。

しかし、長期的な運営を考える場合や、システムのカスタマイズや拡張を重視する場合は、クラウドECの方が有利と言えるでしょう。

クラウドECとフルスクラッチの比較

フルスクラッチとは、文字通り「ゼロからの構築」を意味します。

ECサイトを完全にオリジナルで開発する方法を指し、既存のテンプレートやパッケージを使用せずに、全てを一から作り上げるEC構築方法です。

フルクラッチの最大の特長は、ゼロからの構築となるため、要件やニーズに完全に合わせたカスタマイズが可能な点です。

企業やブランドの特色を最大限に活かすサイト構築が行えるため、独自性や差別化を追求する場合には適した方法と言えます。

しかしその反面、クラウドECと比べると、フルスクラッチの導入期間は非常に長くなりがちです。

ゼロからの開発となるため、設計から実装、テストまでの一連のプロセスに時間がかかるのは必然といえるでしょう。

また、専門的な知識や技術が必要となるため、開発に関する初期費用や運営コストが高くなる可能性があります。

クラウドECであれば、クラウド上で提供されるECサイトのプラットフォームを利用する方法で、初期設定や基本的な機能が既に整っているため、短期間での導入や低コストでの運営が可能です。

独自性やカスタマイズを最優先する場合はフルスクラッチ、スピーディな導入やコストを抑えたい場合はクラウドECという選択が考えられます。

【番外】クラウドECとECモールの比較

ECモールとは、多くのショップが集まる大型のオンラインショッピングモールのことを指し、Amazonや楽天など、大手のECサイトがこれにあたります。

ECモールの最大のメリットは、導入までの期間が非常に短いことで、実際、申請を行うだけで、ショップを開設し、商品を販売することができるようになります。

また、大手のECモールに出店することで、そのモールの集客力を利用することができ、初心者や小規模なショップでも比較的短期間で売上を伸ばすことが期待できます。

一方で、ECモールのデメリットとして、カスタマイズ性が低いことが挙げられます。

モールの基本的な機能やデザインは固定されているため、独自の機能を追加したり、デザインを大きく変更することは難しいのが一般的です。

この点で、クラウドECは非常にカスタマイズ性が高く、企業やショップのニーズに合わせてシステムを構築可能となります。

迅速な導入や大手モールの集客力を活用したい場合はECモールが適していますが、独自性や拡張性を重視する場合、クラウドECの方がより有利と言えるでしょう。

クラウドECのメリットや魅力

クラウドECの概要がわかったところで、実際導入することのイメージが沸くようにメリットを紹介します。

自社にとって有効的なものとなるか確認していきましょう。

常に最新のシステムを利用できる

クラウドECの魅力の一つとして、常に最新のシステムを利用できる点が挙げられます。

クラウド上での運営という特性から、追加の機能やシステムアップデートが自動的に行われるため、ECサイト運営者はいつでも最新の機能やセキュリティを活用することができます。

この自動的な更新は、システムのメンテナンスや更新に関する手間や時間を大幅に削減することができるため、社内のリソースも浮きやすくなります。

つまり、ビジネスの他の重要な部分に集中することができ、全体の業績向上に繋がる可能性もあります。

一方、従来のECパッケージのような形態では、数年ごとのシステム改修が必要となる場合が多く、これに伴う費用や時間が発生します。

このような定期的な改修作業は、業績やサービス提供に影響を与えるリスクも伴います。

この点を考慮すると、長期的な運営や最新技術の導入を考える場合、クラウドECは非常に魅力的な選択肢と言えるでしょう。

サーバーを所持する必要がない

クラウドECの利点の中でも特に重要なのが、サーバーを自社で所持する必要がない点です。

従来のECサイト構築方法、例えばECパッケージやフルスクラッチを採用する場合、自社サーバーを設置してデータやシステムの管理を行う必要があります。

このようなサーバーの設置や管理は、技術的な知識や専門的なリソースが必要とされ、また、初期投資や維持費用がかかるというデメリットがありました。

しかし、クラウドECはインターネット上のクラウド環境でサイトを運営するため、自社でサーバーを購入・設置・運用することなく、ECサイトを安定して運営することができます。

さらに、サーバーのトラブルやセキュリティ対策など、日々の運用に関わる多くの作業がクラウドサービス提供者によって行われるため、ECサイト運営者は商品の管理や販売活動に専念できる点も見逃せません。

カスタマイズ性が高い

クラウドECの大きな特徴の一つとして、その高いカスタマイズ性が挙げられます。従来のECシステムでは、システムのアップデートと個別のカスタマイズの両立は難しいとされてきました。

しかし、クラウドECのシステムは、共通の基本機能を持つ「共通領域」と、各企業やショップが独自にカスタマイズを行う「カスタマイズ領域」に分けられています。

この構造のおかげで、システムの自動更新が行われる共通領域とは別に、各社のニーズに合わせたカスタマイズが可能となっています。

つまり、システムが常に最新の状態を保ちつつ、独自の機能やデザインを追加することができるのです。

また、EC事業の成長に応じて、必要な機能を柔軟に追加・拡張することができるのも、クラウドECの大きなメリットと言えるでしょう。

初期の段階では必要のなかった機能や、新たに導入したいサービスも、カスタマイズ領域を活用して追加することができます。

これにより、ビジネスの変化や顧客のニーズに迅速に対応でき、ECサイトの成長を後押ししてくれるきっかけとなってくれるはずです。

アクセスの急増に対応可能

クラウドECはアクセスの急増に迅速かつ柔軟に対応できる能力がありますが、これはクラウドECが持つ独特のサーバー環境の特性に起因しています。

従来のサーバー環境では、ある一定の容量やアクセス数までしか対応できないため、キャンペーンやセールなどの特定のイベント時に多くのユーザーがアクセスすると、サーバーがダウンしてしまうことがありました。

このようなサーバーダウンは、売上の機会損失はもちろん、ユーザーの信頼を損なう大きなリスクとなります。

しかし、クラウドECでは、必要に応じてサーバーの増減を柔軟に設定することができるため、アクセス数が急増した際でも、迅速にサーバー容量を増やして対応することが可能となり、サーバーダウンを防ぐことができます。

たとえば、あるオンラインショップが限定商品の発売を発表し、指定の日時にその商品を発売する場合を考えてみましょう。

この発売日時に、多くのユーザーが一斉にアクセスすることが予想されますが、クラウドECを利用していれば、このようなアクセスの急増にも柔軟に対応でき、サーバーダウンを防ぐことができるのです。

導入までが比較的早い

従来のECシステム導入には時間がかかることが多い中、クラウドECは最短3カ月ほどの短い期間での導入が可能となっているのもメリットの1つ。

この迅速な導入の背景には、クラウドECがすでにECサイト運営に必要な基本機能を持っているためです。

商品の登録機能
カート機能
決済機能

など、ECサイトとしての基本的な機能が初めから準備されているため、これらの設定やカスタマイズを行うだけで、短期間でのサイトオープンが実現します。

さらに、導入が早いという点は、ビジネスの観点からも非常に効果的といえます。

市場の動きや消費者のニーズは刻々と変わるもの。クラウドECの迅速な導入により、市場の変化にすばやく対応し、競合他社に先駆けて新しいビジネスチャンスをつかむことができるはずです。

クラウドECの注意点やデメリット

クラウドECのメリットと合わせて、デメリットを把握しておくことでより自社に最適かどうかを見極められます。

デメリットも踏まえたうえで、導入を検討してみましょう。

費用が高くなる場合がある

クラウドECの多くのメリットがあるなかで、費用面に関しては注意が必要です。

クラウドECの導入には、初期費用として300〜500万円の出費が考えられ、さらに月額でも数十万円の運用費が発生する場合があります。

このような費用負担は、特にスタートアップや中小企業にとっては大きなハードルとなる可能性があります。

ただし、システムの保守やアップデートが自動的に行われるため、これらに関する追加の費用や手間が発生することがないため、この費用には多くのメリットが含まれているとも言えるでしょう。

その他にも、

サーバーの導入
セキュリティ対策

など、従来のECサイト運営に関連する多くのコストが不要となります。

これらの長期的なメリットを考慮すると、クラウドECの費用はある意味お得であるとも言えるでしょう。

特に初期投資が必要となるため、ある程度の資金力を持った企業や、長期的な運営を視野に入れている企業にとって、クラウドECは最適な選択となります。

ソースコードが把握できない

クラウドECの利用において、事業者が留意すべき点の一つが「ソースコードの非開示」です。

多くのクラウドECサービスでは、ECサイトを構築・運営するためのソースコード（プログラムの内容）をユーザーに開示していません。このソースコードは、クラウドECを提供している事業者が独自に管理・運用しています。

このため、クラウドECを利用する事業者は、ECサイトの深い部分、つまりソースコードの詳細を知ることができません。

つまり、特定の機能のカスタマイズや、システムの深い部分に関する調整が必要な場合、クラウドECの制約により対応が難しい場合があります。

さらに、ソースコードが非開示であるため、将来的に他のシステムやサービスへの移行、特に自社でのシステム管理への移行が困難となる場合もあります。

これは、ビジネスの成長や変化に応じてシステムの変更や移行が必要となった場合に、大きな障壁となりかねません。

どんな場合にクラウドECがおすすめか

クラウドECはその特性から、ある程度の資金力を持つ中規模以上（年商1～20億円以上）の企業に向けたEC構築方法といえるでしょう。

クラウドECのサービスは、高度な機能やカスタマイズ性を持つ一方で、初期導入費用や月額の運用費が発生します。

そのため、これらの費用を無難に賄える資金力のある企業にとって、クラウドECは非常に魅力的な選択肢となるはずです。

また、資金力がある企業は、ビジネスの拡大や多様化に伴うシステムの柔軟性や拡張性を求めることが多いため、クラウドECの持つ高いカスタマイズ性が大きなメリットとなります。

一方、クラウドECはソースコードの非開示が一般的であるため、

ECシステムを自社で保守・管理したい
ソースコードを完全に把握・制御したい

ような企業には向いていません。

このような企業は、フルスクラッチやオープンソースのECシステムを検討するのがおすすめです。

クラウドECに関するよくある質問

ここまで概要やメリットデメリットについて解説しましたが、まだいくつか疑問が残っているかもしれません。

ここでクラウドECに関するよくある質問を紹介するので、安心して始められるように確認しておきましょう。

クラウドECとASPの違いは？

どちらもクラウドで稼働しますが、2つの違いはカスタマイズ性と費用にあります。

クラウドECは機能が充実しており、連携でも制限が低く、ASPと比べてカスタマイズの幅が広いです。

一方ASPはカスタマイズ性が低い分、クラウドECよりも圧倒的に安価で運用が可能となります。

クラウドECのシェア率No.1は？

富士キメラ総研「ソフトウェアビジネス新市場2019-2023年版（数量ベース2018年度-2022年度）」によると、クラウドECのシェア率No.1は「ebisumart」です。

シェア率が高いからといって必ずしも自社に適しているとは言えませんが、選択に迷ったら参考にしてみるのも1つの手です。

クラウドECサービスが必要か判断するには？

クラウドECサービスが必要か判断するには以下項目を基準に判断すると良いでしょう。

セキュリティ対策が安全か
自社の目的がなにか
カスタマイズ性が必要かどうか
保守管理に割けるリソースがないか
最新機能を導入したいか

中でも重要なのが自社の目的です。

正確にクラウドECサービスを導入するべきかどうかを判断するには、まず自社の状況や目的を把握するようにしましょう。

まとめ

クラウドECは、近年のEC市場の成長とともに注目される選択肢となっています。

特に、

クラウドECの高いカスタマイズ性
システムの最新性
導入の速さ

などがメリットとして挙げられる一方で、

ソースコードの非開示
高い初期費用

などのデメリットも考慮すべき点として説明しました。

ECサイトの選択や運営に関する重要な判断材料として、この記事の内容を参考にしていただければと思います。